最適化アルゴリズムとデータ視覚化―バス経路計画への応用―

ページ番号1008559  更新日 令和1年12月13日

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共同研究報告書

最適化アルゴリズムとデータ視覚化
-バス経路計画への応用-

研究代表者 山田俊行
2019年3月

1 研究の概要

本研究は,三重大学といなべ市の連携協力に関する包括協定に基づいて、2018年度の共同研究に引き続いて2019目年度に実施した研究である.研究の概要について以下に述べる.

研究題目

最適化アルゴリズムとデータ視覚化:バス経路計画問題への応用

研究目的

いなべ市において,福祉バス事業の運行開始時から人口構造やバスの利用状況が変わり,公共施設が移転するなど,諸条件が大きく変動した.このため,バスの運行ルートの再考が必要となっている.本研究の目的は,変動した諸条件の将来見通しを行い,数値データを視覚化し,最適化アルゴリズムを用いて適正運用を図ることである.今年度は、昨年度の共同研究で作成した道路網モデル・候補経路提示方法・経路評価方法・自動評価プログラムを、より実際のバス経路計画に適したものへと改良することに主眼を置いて研究を進めた。

研究体制

山田俊行(三重大学工学研究科情報工学専攻講師) を研究代表者とする.その役割は,研究総括及びアルゴリズムの考案と実現である.また,奥岡孝将(いなべ市役所都市整備部交通政策課主事) をいなべ市の担当代表者とする.いなべ市側の共同研究者の役割は,データの分析と評価モデルの作成である.

研究期間

平成30年4 月1 日~平成31 年3 月31 日

研究成果

上記の研究機関で得られた研究成果の概要は次の通りである.

  •  バス経検討用の道路網モデルの改善
  • 候補経路の生成・入力方法の考察
  • 最短経路の探索方法の考案
  • バス経路の評価方法の改善
  • 候補経路の自動評価プログラムの改善
  • バス経路とその評価の視覚化
  • 区域ごとの分布データの地図上での視覚化法の考案

 

2 研究会合の実施記録

共同研究は,三重大学といなべ市とでそれぞれ進めた研究の成果を定期的な研究会合で発表し,解決すべき課題について検討した.前節に述べた研究期間内に実施した研究会合は次の通りである.

場所

三重大学工学部情報工学科棟5 階第1 ゼミナール室

日時と内容

下表の通り,毎月1 度ごとに研究会合を実施した.

研究会合実施日程

日程 時間

1

2018年6月20日(水曜日) 午後2時00分~午後3時15分
2 2018年8月23日(木曜日) 午後2時00分~午後3時10分
3 2018年9月21日(金曜日)

午後2時00分~午後3時45分

4 2018年12月10日(月曜日) 午後2時00分~午後3時00分
5 2019年2月1日(金曜日) 午後2時00分~午後3時15分
6 2019年3月18日(月曜日) 午後2時00分~午後3時00分

 

3 研究成果の詳細

前節に述べた会合の各回ごとの研究成果の詳細を述べる。

第1回

昨年度の共同研究で作成した道路網モデルの問題点を分析し、改善案を検討した。

本研究の目的は、既存の路線データや施設や人口などのデータを活用し、バスの運行経路を再考することである。コンピュータを活用してこの問題を解決する際には、

  • 道路網やバス経路を表すためのデータの表現法(データモデル)
  • バスの候補経路の適切さを数値的に表すための評価法(評価モデル)

の二つを適切に定めることが必要である。昨年度に引き続き、データモデルの構築・改良を主に三重大学側で分担し、また、評価モデルの構築・改良を主にいなべ市側で分担し、研究を進めた。 データモデルの構築・改良での中心的な課題は、道路網を適切にモデル化することである。本研究で扱う道路網データは、地点数が7万点以上ある膨大なものであり、これを直接コンピュータで処理することは、計算時間の観点から現実的でない。そこで、昨年度は、バスが運行可能な最少幅員3m以上の道路だけを道路網構築の対象とすることで単純化し、交差点を結ぶ道路を直線で近似することにより、道路網モデルを構築した。さらに、いなべ市の福祉バスの各路線(図1)のうち、昨年度自動評価が可能となったのは員弁西線・員弁阿下喜線・十社線・坂本線の5路線であった。

現行のバス経路
図1 現行のバス経路

 そこで、第1回は、自動評価に失敗した残りの7路線についてその原因を分析し、問題点の解決にあたった、原因は、全バス停を通る経路がデータモデル上に存在せず、最短経路を求めることができないという点であった。原因の詳細を分析した結果、最短経路を計算する際の中継地点(バス停)の位置の設定方法に問題があることが判明した。問題点を図2に示す具体例で解説する。

バス停の位置設定の問題
図2 バス停の位置設定の問題
バス停の位置設定の改善
図3 バス停の位置設定の改善

この図は、下川合口バス停(路線番号7)に問題があることを示している。図の灰色の線が実際の道路データあり、濃い黒の点と線がそこから自動抽出した道路網モデルである。道路網は、代表店(道路の交差点と端点)どうしを道路の接続関係の線で結ぶ図形によりモデル化している。赤い点がバス停の位置を示している。バス停の位置は必ずしも道路上にあるとは限らないので、道路網モデル上で最も近い位置にある点を、通貨すべき中継地点として設定する。モデル上の中継地点は青丸で示されている。図の範囲内では下川合・下川合口・下野尻の三つのバス停が赤で示され、それぞれ最も近い中継地点が三つの青丸で示されている。下川合口バス停のある道路上にはバス停の周辺にモデル上の点がなく、代わりに少し離れた最寄りの中継点が選ばれている。この中継点は、幅員の制限により選択されなかった道路につながっており、モデル上では他の道路へバスで通行不可能なものとして扱われてしまっている。このため、全バス停を通る経路が存在しないという、望ましくない結果が得られた。

この問題点を解消するため、最短経路を計算する際の中継地点の位置を「バス停に最も近いモデル上の点」に認定するのではなく、「バス停に最も近い道路上の点に一番近いモデルの点」に設定するように変更した。これにより得られた結果を図2に示す、バス停からは少し離れるがバス路線上の地点が中継点として選ばれるようになった。この改良により、12路線全ての経路評価を自動実行できるようになった。

課題としては、経路の評価が即時にはできない点が挙げられる。現時点では、道路網上の2点間を結ぶ最短経路を求める基本的な計算手順を繰り返し適用して中継点を順に通る最短経路を求めているが、経路評価の高速化が要求される場合には、この計算方法を改良する必要がある。最短経路の計算を経路評価から分離するのも一つの解釈方法である。

第2回

道路網モデル上で全バス停を通る最短経路を、現実のバス路線として採用する場合に、何が不適切かを検討してデータモデルを改善し、また評価モデルの見直しのために経路の評価方法を定式化した。

全バス停を通る最短経路に対する、いなべ市からの問題点の指摘の例を図4に示す。

データモデル上の最短経路の問題点
図4 データモデル上の最短経路の問題点

地図上に手書きで書き込まれた指摘をデータモデルに反映するため、データモデル上での位置や道路区間をコンピュータ上で指定できるよう、地図データ入力補助システムを拡張した。位置や道路区間の指定には、最短経路を計算する際の中継地点の位置を設定するために前回作成した、「バス停に最も近い道路上の点に一番近いモデル上の点」の計算方法がそのまま適用できる。 最短経路に対して指摘された問題点を詳細に調べるため、現行のバス経路とモデル上の最適経路との違いを比較した。その結果の一部を図5に示す。

現行路線とモデル上の最短経路
図5 現行路線とモデル上の最短経路

灰色の点と線は道路網データモデルである。青色の太い点線は道路網モデル上で全バス停を通る最短経路であり、水色の細い点線は現行のバス路線である。また、赤で示したのが、×印を入力位置としてモデル上の点や道路区間を指定した結果である。最適経路を分析した結果、以下の問題が明らかになった。

1.通行可能な道路だけに絞る制限が強すぎて、現行の路線が道路網モデル上で通行不可と扱われている場所がある。 2.道路網モデルに修正を要する場所が多数あり、それらは、地図データや道幅データだけでは情報が得られないため、手作 業でのデータの更新作業が必要である。 3.数学的に最短であっても、バスの走行経路としては、折り返しを禁止すべき場所がある。

各問題点について検討した解決策は次のとおりである。問題1については、現行路線にあるが幅員の制限により場外されてしまっている道路区間をデータモデルに追加する。問題2のうち「施設の敷地内はの乗り入れが必要」と指摘された経路については、敷地内の道路を追加するか、バス停がデータモデルの道路上にあると捉えなおして評価値を計算するか、いずれかの方法を採用する。問題3については、折り返し禁止場所をデータモデルへの付加情報として追加するか、あるいは、最短経路の「最短」の定義を見直して、折り返しを含まない経路の探索方法を考案する。 データモデルへの道路追加の作業量を確認するため、追加が必要な部分の自動抽出を試みた。

 

現行路線とモデル上の最短経路の比較(1)
図6 現行路線とモデル上の最短経路の比較(1)
図7 現行路線とモデル上の最短経路の比較(2)
現行路線とモデル上の最短経路の比較(2)

青色で示した現行バス路線のうち、赤色と青色で示した部分が道路追加の候補となる道路区間である。なお、黄色で示した部分は、幅員3mの制限を設けたために道路網モデルから除外されてしまった道路区間であることを意味する。ここでは、抽出条件を「現行バス路線データが道路網モデル上の地点から40m以上離れているもの」として機械的に取り出したため、抽出された道路区間にデータの追加が必要となるとは限らず、必要性を目視で判断して手作業で道路データを追加しなければならない。また、このデータ追加を全12路線で実施する必要がある。

評価モデルの見直しのため、前年度に設定した評価方式を定式化した。バス経路は、路長・施設・人口の三つの観点からそれぞれ評価し、各観点での評点の総和を経路の評点とする。つまり、バス経路ℓの総合評点f(ℓ) は、路長点f0(ℓ)、施設点f1(ℓ)、人口点f2(ℓ) の総和で表される。

f(ℓ) = f0(ℓ) + f1(ℓ) + f2(ℓ)

路長点は「片道13km を100 点とし、そこから100m 増減で1 点減増する」と定めた.「100m 増減で1 点減増」「1km 増減で10 点減増」と同じことなので,経路ℓ の(km 単位の) 路長を |ℓ|と書くと路長点f0(ℓ) は次式で表せる。

f0(ℓ) = 100 + (13 - |ℓ|) × 10

施設点は、施設の位置p ごとにその種類と経路ℓ までの距離に応じた点数f1(ℓ, p) を評価し、それを合計する。そのため、施設の位置ごとにその基礎点(0~10 点) を一覧表の形で定め、位置p の基礎点をb1(p) で表す。また、路線までの距離に応じた点数は「路線より半径100m 以内は基礎点,200m 以内は基礎点の1/2 の点、それ以上は0 点」と定めたので、経路ℓ から位置p にある施設までの(km 単位の) 距離をd(ℓ, p) と書くと施設点f1(ℓ) は次式で表せる。

f1(ℓ) = Σp f1(ℓ, p)

                            f1(l, p) = | b1(p)     (0   ≦ d(l, p) ≦ 0.1)
                                         | b1(p)/2 (0.1 < d(l, p) ≦ 0.2)
                                 | 0          (0.2 < d(l, p))

人口点は、人口中心地(自治会館の位置)p ごとにその集落の交通弱者の人口と経路ℓ までの距離に応じた点数f2(ℓ, p) を評価し、それを合計する。そのため、人口中心地ごとに交通弱者の人口に応じた基礎点を一覧表の形で定め、人口中心地p の基礎点をb2(p) で表す。また、路線までの距離に応じた点数は「人口中心地から300m 離れるごとに1 点減とする」と定めたので、経路ℓ から人口中心地p までの(km 単位の) 距離をd(ℓ, p)と書くと人口点f2(ℓ) は次式で表せる。

f2(ℓ) = Σp f2(ℓ, p)
f2(ℓ, p) = max(b2(p) - d(ℓ, p)/0.3, 0)

f2(ℓ, p) の定義で0 との最大値を求めているのは、経路から遠く離れた人口中心地に対して負の点数を加算せず0点と扱うためである。なお、施設点と人口点で使う、経路ℓ から位置p までの距離d(ℓ, p) については、明確な定義が与えられていない。現時点での評価システムでは、経路ℓ 上の点とp との距離の最小値を採用しているが、この定義が適切かどうかは議論の余地がある。

第3回

道路網モデルにデータを追加し,最短経路の定義を見直し、経路の評価関数の妥当性を検討した。
前回明らかになったデータモデルの問題点を解消するには、道路網モデルにデータを追加しなければならない。これまでは、大規模な地図データから道路網モデルを作るために、自動処理のためのプログラムを利用してきたが、今回はデータの必要性を目視で判断して手作業で追加しなければならない。そこで、路線番号や地点番号などデータの詳細を表示できるよう、地図データの表示システムに機能を追加した。表示結果の例を図8に示す。

地図データの詳細表示
図8 地図データの詳細表示

図中で、青は現行のバス路線のデータ、黒は最小幅員3m以上の(通行可能と扱う)道路のデータ、赤は最小幅員3m未満の(通行不可能と扱う)道路のデータ、である。この図を拡大して、いなべ市から指摘された問題の地点と比較し、道路番号や地点番号などの必要なデータを調べ、市内全域にわたって手作業で道路網データの追加や修正をした。さらに、道路から離れたバス停を、道路網モデルの道路上で最もバス停に近い位置を計算した。この結果の一部を図9と図10に示す。

道路の追加とバス停位置の移動(1)
図9 道路の追加とバス停位置の移動(1)
道路の追加とバス停位置の移動(2)
図10 道路の追加とバス停位置の移動(2)

データモデルに追加した道路のデータが橙色で、移動前と移動後のバス停の位置がそれぞれ赤い○と×で示されている。

続いて、評価モデルの妥当性の検討に移る。福祉バスの経路としての人口点の評価の妥当性を検討するため、
いなべ市内の各区域の人口分布と交通弱者人口の割合のデータを視覚化した。まず、経路評価で人口の評点を計算するための、各区域の人口中心地(自治会館の位置)と全年齢人口を図11と図12に示す。

各区域の人口中心地
図11 各区域の人口中心地
各区域の全年齢人口
図12 各区域の全年齢人口

全年齢人口の図では、人口に比例する面積の円を人口中心地に配置している。次に、交通弱者人口の割合のデータを図示するため、新たな可視化を試みた結果を図13と図14に示す。

各区域の交通弱者人口
図13 各区域の交通弱者人口
各区域の高齢者人口の割合
図14 各区域の高齢者人口の割合

交通弱者人口の図では、全年齢人口に占める交通弱者人口を視覚的に表すため、内側に濃い円を重ねて表示した。また、高齢者人口の割合をより比較しやすくするため、割合の大小を青から赤に連続的に変化する色の点として表示した。昨年度は、各値域を色で塗りつぶす表示法を採用したが、色の点を使った表示方法では、小さな区域や複雑な形の区域があっても違いが比べやすい。新町上・鼎・本町・上之山田 の4区域では高齢者人口の割合が多く、全人口の約4~5割を占める。

第4回

経路の評価関数と最適経路の探索方法について再検討を行った。

評価関数の妥当性についての検討結果は次の通りである。まず、路長点は「片道13kmを100点とし、そこから100m増減で1点増減する」と定めていたが、複数経路がある福祉バスにとって、経路の路長を一定の数に決め付けてしまうことは経同士の平等性が保てなくなり比較が難しい。そのため各経路の標準路長=基準を定め、今後の増減で路長点を求めることで解決を図る。次に施設点では、基礎点を求める範囲が「路線より半径100m以内は基礎点、200m以内は基礎点の1/2の点、それ以上は0点」と現状と比べ対象範囲が狭いことから範囲の拡大が必要であると考え、基礎点の捉え方を距離が
長くなるにつれ減少するように見直しを行なった。最後に人口点では基礎点を求める基準が「人口中心地から300m離れるごとに1点減とする」とあるが、負の点数を加算しないのであれば段階的に設定することで足り得ると考えられる。なお、前々回に指摘された、経路ℓ から(施設や人口中心地の)位置 p までの距離 d(ℓ, p) は、「位置 p から経路 ℓ 上の最寄りのバス停までの距離」によって定めることとした。

次に、バスの走行にふさわしい候補経路を得るため、折り返し禁止を考慮して経路を探索するように、最適経路の計算方法を修正した。得られた最短経路の例を図15に示す。

折り返しを避ける最短経路
図15 折り返しを避ける最短経路

現行路線を青線で示し、道路網モデル上で折り返しを避ける最短経路を赤で示している。図15 のバス停14 と
15 の間は、交差点の自動抽出の失敗により、折り返し禁止の制約で不自然な迂回を生じてしまったと考えら
れる。図15 のバス停6 と7 やバス停21 と22 の間は、数学的に最短な経路ではあるが、現実には走行しにく
い経路が得られている。図15 のバス停22 と23 の間は、現行路線の代替経路を示唆しており、現実のバス路
線の改善の検討にこの最短経路を利用できる。

第5回

候補経路の自動評価システムを改訂し、評価結果に基づいてバス路線を見直す方法を検討した。

前回見直した評価モデルに基づいて評価方法を再度定式化した。
経路 ℓ の総合評点  f(ℓ) は、これまでと同様に路長点 f0(ℓ)、施設点 f1(ℓ)、人口点 f2(ℓ) の総和で与える。

f(ℓ) = f0(ℓ) + f1(ℓ) + f2(ℓ)

路長点 f0(ℓ) は、各経路 ℓ ごとに標準路長 |ℓ0| を設定し、標準路長の1/100増減で1点減増(つまり標準路長の増減で100点減増)するので、次式で表せる。

f0(ℓ) = 100 + (|ℓ0| - |ℓ|)/|ℓ0|

つまり「基準長に対し路長が何\%短いかを、100点に加点にした値」とも捉えられる。施設点は、施設の各位置 p ごとに基礎点 b1(p) を設定し、各位置 p で経路 ℓ に応じた点数 f1(ℓ、p) を評価し、それを合計する。各位置での路線に応じた点数は「路線より半径300m以内は基礎点、600m以内は基礎点の1/2の点、それ以上は0点」と定めたので、経路 ℓ と位置 p との距離を d(ℓ、p) を使うと、施設点 f1(ℓ) は次式で表せる。

f1(ℓ)    = Σp f1(ℓ、p)
f1(ℓ、p) = | b1(p)   (0   ≦ d(ℓ、p) ≦ 0.3)
           | b1(p)/2 (0.3 < d(ℓ、p) ≦ 0.6)
           | 0       (0.6 < d(ℓ、p))

人口点は、各人口中心地 p の基礎点 b2(p) を設定し、各位置 p で経路 ℓ に応じた点数 f2(ℓ、p) を評価し、それを合計する。各位置での路線に応じた点数は施設と同様に定めたので、経路 ℓ と位置 p との距離を d(ℓ、p) を使うと、人口点 f2(ℓ) は次式で表せる。

f2(ℓ)    = Σp f2(ℓ、p)
f2(ℓ、p) = | b2(p)   (0   ≦ d(ℓ、p) ≦ 0.3)
           | b2(p)/2 (0.3 < d(ℓ、p) ≦ 0.6)
           | 0       (0.6 < d(ℓ、p))

新たな評価式を使って、各路線について、折り返しを避けて全バス停を通る最短経路の評点を計算した。各路線の評点とその内訳は次の通り

路線 合計点 路長点 施設点 人口点
員弁西線 531.35 83.56 103.00 344.79
員弁阿下喜線 638.68 50.60 107.00 481.08
十社線 448.83 56.73 107.00 285.10
治田線 552.06 91.59 129.00 331.47
山郷線 495.12 115.79 62.50 316.83
貝野線 456.66 105.36 101.00 250.30
中里線 523.70 106.25 102.50 314.95
立田線 511.09 89.34 106.50 315.25
坂本線 555.40 122.90 122.50 310.00
石榑線 656.97 21.56 114.00 521.42
三里丹生川線 642.77 13.66 119.50 509.62
梅戸井線 668.53 33.62 151.00 483.91

改訂後の評価方法は、路線により路長点の基準点が異なるため、路線間で合計点や路長点の大小を比較しても意味がない点には、注意を要する。

改訂後の評価関数に基づいて、候補経路を変えて繰り返し評価を実施できるよう、経路自動評価システムを再設計した。入力データは、以下の5個のCSV(コンマ区切りの値のテキスト)ファイルとする。

 

  1. 標準路長
  2. 経路 (東経、北緯)
  3. 施設 (施設名、東経、北緯、基礎点)
  4. バス停 (バス停名、東経、北緯)
  5. 人口 (自治会名、東経、北緯、基礎点)

出力データは、以下の2種類のファイルとする。

  1. 経路評価とその内訳 (テキストファイル)
  2. 経路と評点の視覚化 (PDFファイル)

入力データの編集や交換により、入力を変えて経路評価を繰り返すことができる。また、これまでに作成したプログラムをその構成から大幅に見直し、再設計した経路自動評価システムを実現した。

現行のバス路線の経路を評価システムに入力して得られた評価結果のテキストファイルを以下に示す。

---------------------------------------------------------------------------
路長99.88点 施設103.00点 人口144.60点

路長点 ( 基準長に対し路長が何%短いかを、100点に加点 )
[99.9点]
基準長:15.20km 路長:15.22km

施設点 ( 最寄りバス停との距離 300m未満:満点 300m以上600m未満:満点*0.5 )
[103.0点]
10.0点 満点10   0.0m ヨシヅヤ (ヨシヅヤ バス停)
10.0点 満点10   0.0m 三里駅 (三里駅 バス停)
10.0点 満点10   0.0m 楚原駅 (楚原駅 バス停)
 5.0点 満点 5  11.5m 小笠原内科 (小笠原内科 バス停)
 5.0点 満点 5  15.2m わたなべ整形 (わたなべ整形 バス停)
 5.0点 満点 5  16.2m 因田医院 (楚原北 バス停)
 3.0点 満点 3  22.2m 員弁コミュニティプラザ (コミュニティプラザ バス停)
 2.0点 満点 2  38.3m かわはし薬局 (わたなべ整形 バス停)
 3.0点 満点 3  52.1m 員弁運動公園体育館 (コミュニティプラザ バス停)
 2.0点 満点 2  52.2m いなべ調剤薬局 (小笠原内科 バス停)
 3.0点 満点 3  63.7m 員弁老人福祉センター (員弁庁舎 バス停)
10.0点 満点10  84.5m セイムス (小笠原内科 バス停)
 5.0点 満点 5  88.3m いなべ市役所員弁庁舎 (員弁庁舎 バス停)
10.0点 満点10 111.5m イオン大安店 (イオン大安店 バス停)
 3.0点 満点 3 142.5m 員弁健康センター (員弁庁舎 バス停)
 3.0点 満点 3 144.2m 桑名信用金庫員弁中央支店 (員弁庁舎 バス停)
 3.0点 満点 3 158.0m 百五銀行員弁支店 (小笠原内科 バス停)
 3.0点 満点 3 195.5m 三重銀行員弁支店 (ヨシヅヤ バス停)
 5.0点 満点 5 203.2m にい歯科医院 (ヨシヅヤ バス停)
 3.0点 満点 3 277.2m JA三重北笠田支店 (笠田新田観音堂 バス停)

人口点 ( 最寄りのバス停との距離 300m未満:満点 300m以上600m未満:満点*0.5 )
[144.6点]
 7.8点 満点 7.8  21.4m 市之原 (市之原公民館 バス停)
 9.0点 満点 9.0  35.8m みその団地 (御薗 バス停)
20.6点 満点20.6  67.3m 上笠田 (上笠田宇野公民館 バス停)
 1.3点 満点 1.3  72.6m 笠田東 (下笠田 バス停)
 2.4点 満点 2.4  83.1m 御薗 (御薗 バス停)
14.4点 満点14.4  84.9m 楚原 (楚原駅 バス停)
12.2点 満点12.2 186.0m 下笠田 (下笠田 バス停)
11.6点 満点11.6 218.5m 高柳 (三里駅 バス停)
 9.9点 満点 9.9 235.0m 畑新田 (畑新田八幡社 バス停)
18.8点 満点18.8 254.3m 平塚 (三里駅 バス停)
14.2点 満点14.2 298.3m 石仏 (小笠原内科 バス停)
 0.2点 満点 0.4 421.5m 上笠田北 (上笠田宇野公民館 バス停)
 7.4点 満点14.8 436.9m 大泉新田 (小笠原内科 バス停)
 6.7点 満点13.3 568.2m 笠田新田 (笠田新田観音堂 バス停)
 8.2点 満点16.3 597.0m 北金井 (みその団地 バス停)
---------------------------------------------------------------------------

また、経路と評点の視覚化結果のPDFファイルを図16に示す。

 

現行路線の評価
図16 現行路線の評価

これまでと同様に、現行路線を青で示し、入力された道路網モデル上の経路を赤で示している。緑の丸の大きさは各施設の基礎点を表し、赤い丸の大きさは各自治会館の人口の基礎点を表す。

続いて、本研究による経路評価方式と経路自動評価システムを、現実のバス路線の運行経路の見直しに適用する方法を検討した。前回改訂した経路の評価方式は、各基準点を固定した場合に、路長点が経路の長さのみに依存し、人口点と施設点がバス停の位置のみに依存する。したがって、評価点を経路とバス停の二つの観点に分けて考えることができる。
経路については、計算により求めた最短経路が代替経路の候補として使える。本研究の経路評価では、潜在的な利用者の多い場所にバス停を設置すると、人口点が高くなるよう評価式を定めている。潜在的な利用者の多い場所を探す際には、視覚化結果のPDFファイルが検討の参考になる。

第6回

バス路線の見直し案を策定し、
本研究で定めた評価方式により現行路線との比較を行った。

いなべ市により策定された路線の見直し案では、バス停について以下の変更があった。

  • 山郷線で、楚里と昭電の二つのバス停を追加
  • 貝野線で、貝野分校跡バス停を西貝野バス停に変更
  • 中里線と立田線で、阿下喜温泉バス停を追加
  • 坂本線で、阿下喜温泉と下野尻自治会館の二つのバス停を追加
  • 石榑線で、東海コンクリート西バス停を東海コンクリートバス停に変更
  • 三里丹生川線で、バッティングセンターと丹生川駅の二つのバス停を追加
  • 梅戸井線で、東川原バス停を東川原北バス停に変更

また、経路については、以下の変更があった。

  • 山郷線で、二つのバス停の追加に伴う経路の追加
  • 坂本線で、下野尻自治会館バス停の追加に伴う経路の変更

現行路線と見直し路線のそれぞれの経路を再度データ化し、経路に違いのあるものについて、視覚化した結果を以下に示す。

 

山郷線(現行)
図17 山郷線(現行)
山郷線(見直し案)
図18 山郷線(見直し案)
坂本線(現行)
図19 坂本線(現行)
坂本線(見直し案)
図20 坂本線(見直し案)
三里丹生川線(現行)
図21 三里丹生川線(現行)
三里丹生川線(見直し案)
図22 三里丹生川線(見直し案)

さらに、本研究で定めた評価方式により、現行路線と見直し路線の評価値の比較を行った。評価値に変化のあった路線は次の通りである。

路線 合計点 路長点 施設点 人口点

山郷線

現行 284.91 132.78 75.83 76.30
  見直し 279.12 124.34 75.83 78.95
中里線

現行

289.31 104.69 97.50 87.12
  見直し 290.31 104.69 98.50 87.12
立田線 現行 309.15 107.13 109.50 92.52
  見直し 310.15 107.13 110.50 92.52
坂本線 現行 304.40 88.73 124.50 91.17
  見直し 308.59 87.28 127.00 94.32
三里丹生川線 現行 337.87 106.94 119.83 111.10
  見直し 335.76 104.82 119.83 111.10
梅戸井 現行 338.75 101.94 135.67 101.15
  見直し 339.84 101.94 135.67 102.23

山郷線では路線の延長により路長点が大きく減ったことにより、合計点が減少した。その他の路線では、施設点や人口点の増加が合計点の増加につながっている。

今回は本研究で定めた評価方式に基づいて路線案を策定し、地図上で視覚化したデータを使って、新路線と旧路線を数値で比較することが可能となった。数値による新旧路線の比較結果を、バス路線の利便性の向上へとつなげることが、今後の路線運用の課題である。特に、評価点の高くなった路線での利用頻度の増加や、評価点の変動の小さい路線での利便性の向上を目指して、バス路線の評価や検討を続ける必要があると考える。

4 結論

本研究で得られた主な研究成果は次の通りである。

  •  バス経路検討用の道路網モデルを改善した。
  •  最短経路アルゴリズムに基づく候補経路の生成・入力方法を考案した。
  •  折り返し禁止を考慮した最短経路の探索方法を考案した。
  •  路長と人口と施設に基づくバス経路の評価方法を改善した。
  •  候補経路の自動評価プログラムを再設計し再構築した。
  •  バス経路とその評価の視覚化法を考案し実現した。
  •  自治会館ごとの交通弱者人口の割合の地図上での視覚化法を考案し実現した。
  •  バス停やバス経路の見直しに、本研究の評価方法が利用できることを確認した。

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